新章 神様のカルテ

いよいよ大学病院編である。

主人公栗原一トは、作者 夏川草介の「分人」のひとつであるかもしれない。

もちろんフィクションであるが、エピソード一つ一つは、間違いなく実際にあった出来事に取材しており、一トの言葉と行動には作者の実際と願望とが混然としているに違いない。

前作から三年、気づいたことは、主人公とは別に作者自身のリアルな視点がより鮮明に盛り込まれ、もう一人別の主人公が、一トと彼を取り巻く人々を見守りつつエールを送っているが如きであることだ。

物語は大きな展開を持った。

大学付属病院という日本独自の在り方について、これほど的確でフェアな描写を他に知らない。

異論はたくさんあるだろうが、私は著者の「苦心」のあとに、ただただ敬意を表する。

おまけだが、夏川草介氏の日本酒についての薀蓄に共感し、かつ嫉妬する。

山田錦と、雄町についての一文など敬服の至り。

而今 雄町」一献かたむけたいものだ。

次作を楽しみにするとともに、医者としての原点に立ち返りたいとき、「神様のカルテ 1」をいつでも手に取ろう。

オスラーがイデアであるとすれば、栗原一トは原点である。